病院でバーチャルリアリティー映像をリハビリトレーニングに利用しているケースを前に書いたが、今回は住まい選びに取り入れている例を紹介したい。
スウェーデンはここ最近5年間で1割もの人口が増えており、それに伴い当然のことながら住宅難が深刻な問題となっている。この先10年以内に新たに70万戸の住宅が必要との予想も出ており住宅建築ラッシュが続いている。
そんな好調な建築業界において、マンションを販売する新しい手法として顧客に3Dの映像を見てもらい、これまで以上に納得して新居を購入してもらうプロセスが加わった。
具体的にはスウェーデン wec360° 社 が手掛けている2つの手法、バーチャルリアリティー (VR: Virtual Reality)と拡張リアリティー (AR: Augmented Reality)の2段構えでお客さんが希望する物件を体感してもらうのである。
現場で実際にVRゴーグルを着用し体感用ソフトをスタートさせるとその臨場感とリアルさに驚く。自分自身が映し出された部屋の中の空間にすっぽり入ってしまうのである。一瞬にして自分が真新しいリビングにワープした状態になる。壁やドアやソファーなど周りのすべての物がほぼ等身大で存在し、手を伸ばせば椅子を動かしたりできる感覚にとらわれる。頭をゆっくり動かすと360度、天井から床、左右両サイドまでグルリと見渡すことができる。部屋から部屋へバーチャルで歩いて行け、特に有効だと思ったのは初めから備え付けが施されるキッチンやバスルームなど。例えばキッチンシステムはこちら向きでなくあちら向きの方がいいとか、バスタブの位置を確認したりできる。このVR体感はセールス担当者がタブレットでソフトを操作し「はい、次はキッチンに入りますよ~」など声をかけながらVRゴーグル着用のお客さんにバーチャルで部屋から部屋ヘウオークスルーしてもらう。
このシステムではお客さんの年齢層に合わせたインテリアや家具が施されたモデルルームパターンを用意することもできる。現物のモデルルームでは一度にワンパターンの部屋しか準備できないが、デジタルの世界では色んなパターンを作り出すことが可能だ。例えば同じ家具が収まったリビングであっても、子供が巣立った夫婦向けであればテーブルの上には花が活けてあったり、小さな子供のいる家族が対象であればテーブルの上にはレゴがあったりソファーにはTシャツが無造作にかかっていたりといった具合に、より現実の生活に近い形の空間をお客さんに体感してもらうことができるのである。そして「はい、次はベランダですよ」と声がしたかと思うと、一瞬にしてマンションのバルコニーに立ち外の風景をパノラマで眺めることもできる。
次にARを使った例。左のイメージがAR(Augumented Reality: 拡張リアリティー)でお客さんに物件建物そのものを紹介している様子。見取り図が描かれたボードをテーブルに置き、タブレットを少し立てかける。そうすると見取り図の位置に沿って将来建つマンションがタブレットに飛び出した感じで(まさに3Dで)表示される(写真だとフラットになってしまうので非常に解りにくいが)。実際に敷地内で棟がどう並んだ感じになるのか、一瞬にして模型の建物群が目の前に現れるとでも言ったらよいだろうか。タブレットの角度を微妙に変えることにより視点が自在に変わるので、下から目線で建物を眺めたり、上から目線で見たり(屋上の屋根を見ることもできる)、建物の脇から横並びの隣の棟を見たりすることもできる。特定の建物だけでなく、ボード上の見たい所にタブレットを移動することで敷地内はどこでも見れるので、敷地内をバーチャルで移動できる。敷地内だけでなく現地付近の鳥瞰図も3Dで用意されており、駅や学校などの位置関係が手に取るようにわかる。
この3Dを使った住宅販売は、施工・販売側からはまだ図面段階の状態のものから本格的に顧客へアピールできるツールとして、そして顧客側からはどの物件が自分達に最適なものか非常に解りやすいと、両サイドから好評を得ている。3D開発を使ったこの一連のプロジェクトを進めている wec360° 社は今年上四半期ですでに前年度比54%の増益を上げ、業界から注目を集めている。
3Dイメージのサンプルは下のリンクから。ポインターを上下左右に動かして視点を変えることにより部屋の中をぐるりと見渡すことができる。360度ビューそのものはホテルのオンラインサイトやグーグルマップなどでも何年も前から取り入れられてはいるが画質の良さは全く比べものにはならないのに気が付くだろう。
PC画面でみる360度ビューのリンクはこちら。
http://public.wec360.se/krux/sjobodarna/leverans/3rok/pano.html