北米大陸発見は1492年コロンバスと教科書で習ったが、実際にはそれより500年も前、11世紀にバイキングのレイフ・エーリクソンがノルウエーから船で北米(現カナダ)へ渡り、その地を Vinland (ワインランド)と呼んだという記録がある。このエーリクソンの冒険を辿ろうと、今春ノルウエーを起点に同じくバイキング船で大西洋を航海する試みが行われた。グループは冒険家とボランティアで構成されている。

氷河をバックに帆走するドラゴン号
photo: ©Peder Jacobsson, Draken Harold Hårfagre
「美しい髪を持つハラルド王のドラゴン号」と命名された今回の船は、北欧に伝わるサガ(叙事詩)に描かれたバイキング船を参考に建造され、全長35メートル、幅8メートルにわたる世界最大のバイキング船となった。4月24日にノルウエーを出発し、途中アイスランド、グリーンランドを経て先週カナダのニューファウンドランド地域にあるセント・アンソニー港に到着した。ちなみにこの港付近にはバイキング達が航海の後定住した事で知られるランス・オ・メドーという遺跡がある。
先週カナダに到着したスタッフは、「海図もなく、海洋に関する知識も今に比べて乏しかった1000年前にバイキング達がこの地に到着したことを想像すると言葉がない。現在我々には、海図があり行先もわかっている。しかしそれでもエンジンもモーターもないシンプルな木造のバイキング船での航海は容易なものではなかった。」とコメントしている。

バイキング船博物館に展示されているゴクスタード船
Photo: https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=338013
バイキング、エーリクソンの新大陸発見の冒険にちなんだ、後世のバイキング船による航海は今回のドラゴン号が初めてではない。すでに1893年にノルウエーから北米へ大西洋横断のチャレンジをしている。
ところで、世界最古のバイキング船は890年に建造されたとされるゴクスタード船 (Gokstadskipet) で、これは1880年にノルウエー南部の古墳で発掘された。(この船は現在オスロのバイキング船博物館に展示されている。)
そしてちょうどこの船が発掘されたのと同時期、1893年開催予定の米シカゴ万国博覧会はコロンバスの新大陸発見400年周年がテーマと決定した。ノルウエー国はこのゴクスタード船を国としてのアピールに最適、そしてそれ以上にバイキングこそが一番最初に北米大陸を発見したことを実証できるチャンスと考え(叙事詩があることはすでにアメリカでも知られていた)、この船のレプリカを建造し実際に航海することを決定した。発掘されたゴクスタード船に忠実に復元されたバイキング船は全長23メートル、幅5メートルになった。

1893年シカゴ万博に登場したバイキング船
この船にマグナス・アンダーセン船長が11名の船員と共にノルウエーのベルゲンを出航したのは1893年4月30日。28日間かけて大西洋を航海しカナダのニューファウンドランドへ5月27日に到着した。ニューヨークで盛大なセレブレーションを受けた後は、ハドソン河を北上しエリー湖へ入り、フーロン湖、ミシガン湖を経て目的地シカゴへ7月12日に到着した。シカゴ万博へは海外46か国の参加があったが、このバイキング船の登場は相当のインパクトがあったようで、後にはアメリカの郵便切手のモチーフにもなった。ちなみに1893年に大西洋を渡ったこの船は現在もイリノイ州の公園に保管されている。

アメリカ切手のデザインとして登場
バイキング船は長年人々に畏怖と憧れをもたらし、その美しいフォルムは今でも北欧建造物にレリーフやモデルとして用いられることが多い。ノーベル賞授賞式で有名なストックホルム市庁舎にもバイキング船にちなんだ議会室がある。