毎年この時期、2月の第一木曜日から土曜日までの3日間、極寒にも関わらず国内外の観光客や地元人でにぎわう場所、ヨックモック。ヨックモックは北緯 66.37度、北極圏に位置するサーメ人(北欧北方民族)の地、ラップランド地方の中心地である。サーメ人とは民族的なくくりであり、ラップランド全体が彼らの地であるから、国籍はスエーデンであったり、フィンランドであったり、ノルエーであったりする。
さてこのウインターマーケットは 17 世紀から始まり今年はなんと 414 周年を迎えた。そもそもこの真冬の集まりは、納税手続の場であったり、教会の洗礼を行う機会であったり、人々が物々交換をしたりすることから始まった。400 年を経て現在は 1.5 キロの長さの通りに約200店舗の屋台が軒を連ねた3日間限定の一大マーケットとなる。この屋台の7割はスエーデン北部から来る。そのため各屋台のテーブルの上には馴染みのない珍しい品々のオンパレードになる。元々サーメ人の生業はトナカイの放牧である。現在はトナカイ業についている人々は全体の約10%と言われているが、トナカイとサーメ人との繋がりは切り離せない。森を切り開いて作られた道を運転していると、野生のトナカイがぞろぞろと道路に出てくるため車を止めて彼らが道を渡り切るのを待つといったことも珍しいことではない。
屋台ではトナカイの角が取っ手のナイフや、トナカイの毛皮コート、敷物、燻製肉があったり、サーメ人特有の民族衣装やストール、キャップ、白樺をくりぬいて作ったカップやカトラリー等々、どれもラップランドならではの自然を上手に利用した品々が並ぶ。そして何より、このウインターマーケット開催中に外せないのがヨーイック(Jojk) ライブである。ヨーイックとはサーメ人の伝統民謡であり、若いアーチストたちにも非常に人気のある音楽である(沖縄の島唄が若者にも人気があるのと似ているかもしれない)。
トナカイをペットのごとく連れて歩いている人々や、古来の民族衣装を自分なりにリメイクしてきている若者の風景などを目にし、少数民族であるサーメ人の地位や誇りといったものを訪れた人々は改めて見直すことになる。サーメ人たちはアルコール依存率が高い、国から生活補助を受けている人々の率が高いなどネガティブな面が取りざたされることもあるが、自国語を維持しオフィシャルな場には民族衣装を身に着け、サーメということを前面に打ち出したイベントやレクチャー、セミナーなどを開催し確実に地元観光産業を伸ばしている。オーロラ、犬ぞりツアー、アイスホテルなど、時にはマイナス40度にもなる極寒の地を逆手に取ったマーケティングが人々を魅了しているのは言うまでもない。一度は訪れてみたい場所である。