自宅出産を希望する人へ助産師の出張サービス

病院で出産を行うのが当然と捉えられているが、最近は自宅出産を話題にする人が増えている。この国では1960年代以降、99%以上が病院で出産しており、実際に自宅出産に踏み切る人はほんの一握りで1パーセントにも満たないのだが、可能性を模索する人が増えてきているのは事実である。
自宅出産の可能性を考える理由は何と言っても住み慣れた環境でマイペースで子供を産みたいということに尽きる。ここ近年医療機関の人手不足には著しいものがあり、つい最近でも救急で病院に担ぎ込まれたはいいものの、すぐに治療をしてもらえずベッドに横たわって待つ人々が病院の廊下に列をなしている様子がニュースに流れていた。出産は地域指定の総合病院の産科ですることが一般的で、そういったハイテンポで慌ただしい状況に置かれることに不安を持つことが一番の理由かもしれない。
件数が少ないとはいえ保健庁ではそんな人達のための制度を設けている。例えばストックホルム地域では自宅出産を希望する人には助産師を2名無料で派遣する。そして本人が希望する介助人(ドーラ:例えば親友や母親など)が一人つく。ただし、自宅出産には危険が伴う可能性があるので(1)初産でないこと(2)正常な妊娠経過でリスク要因となる症状がないこと(3)出産施設が整った病院まで40分以内の距離にあることなどの条件つきである。

サラさんはその条件をクリアし最近、第3子を自宅出産した。新たに出産用の浴槽を購入し臨んだという。過去2度の病院出産との大きな違いは主導権が病院側でなく自分にあったこと。部屋の照明を控えめにし、自分が選んだ助産師、ドーラ、家族に囲まれて気分を落ち着かせて出産できたことに大いに満足している。
サラさんの第3子を取り上げた助産師の一人であるアンさんにとってこの赤ちゃんは260人目の自宅出産ベビーとなった。アンさんは長年大病院の産科でフルタイム勤務をしていたが、自宅出産向けの助産師の仕事と病院勤務を半々にできるように切り替えた。50歳代後半の彼女は長年の経験から病院の慌ただしさや職員不足による仕事量の増加とストレスが、ケアする側の精神状態に影響を及ぼしそれが神経質になりがちな妊婦へも何らかの影響を及ぼしがちになっていることに気が付いており、何とか改善できないものかと考えていた。この勤務制度はそんな彼女にとって願ってもないことだった。

この国でも自宅出産の危険性を主張する意見は多い。しかしアンさんの経験から言えば妊婦の多量出血は自宅出産で1.2 % 程度だが病院では 4-5 % だそう。自宅出産で取り上げた260件のうち病院へ運んだケースは、異常出血になった妊婦が3名、それと呼吸困難に陥った新生児1名だという。そんな彼女の意見は、「どこでどう出産するかは妊婦自身が決めることに尽きる。家で産みたい人はそうすればいいし、病院がいい人はそうすればいい。計画通りに産みたい人は帝王切開も良し。心配事があったら我々に相談してほしい」と頼もしい。

生き方や食など様々な面でナチュラル志向を求める人が増える中、出産もセーフガードがしっかりしていればそれを検討する人達が増えても不思議ではない。高齢者への看護師出張サービスが一般化しているように、派遣型助産師がもしかすると増えてくるかもしれない。

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