ストックホルム市の地下鉄アート – 地下鉄構内のデザイン展示- はよく知られるところである。ガイドブックを片手に地下鉄巡りをするツーリストの姿もよく見かける。
駅構内そのものが巨大オブジェとも言えようか。そのユニークさは特筆すべきものだ。展示されているアートも面白い。
例えば、ブーツのオブジェクトが天井からぶら下げられていたり、遺跡を掘り起こして出てきたような墓場があったり、スポーツ競技風景の絵はそれを見る角度によって参戦チームのどちらの側の立場からでも鑑賞できるようになっていたり、色々と趣向がこらされている。
天井にブーツが
これは一枚の絵
駅構内のセメタリー
空間に溶け込んでいるこれらのアートは、美的効果を与えるだけでなく、その駅や周辺地域そのものを語るという役割も担っている。例えば前述したもので説明すると、ブーツのオブジェは実際にその駅近くにある老舗の手作り靴屋さんをたたえるものであるし、墓場のアートは駅近くで考古学の発掘作業があり遺跡が見つかったという事実をアートでデフォルメしたものであり、スポーツは地下鉄の近くに大きなスポーツ競技場があったりする。だから目にするオブジェクトやデコレーションから、「もしかしてこの近くには病院があるとか?」とか、「何か音楽に関連する場所?」とか推測することもできる。
そしてもう一つ感心するのが、製作者が必ずしも有名な芸術家ばかりというわけでないことである。世界中には象徴的なアーティストが全面に出てくる都市がいくつかある。例えばシカゴ=ミロ(郵便局広場に展示されたオブジェ)、バルセロナ=ガウディとか。
ストックホルムの地下鉄アートは1950年代から始まり、有名無名、有名といっても国内で知られた存在という程度の、アーティストによる作品であふれている。地下鉄沿線が四方八方に伸びると同時に、今も新しい作品が次々と飾られている。ありとあらゆる芸術家が、それぞれの感性で時代を映し出した作品が乗客の目を楽しませてくれる。そんな中にも、なんとなくスエーデンの平等意識を感じるのだ。
ちなみにストックホルムの交通機関はすべて公共である。つまり国民の税金をこういう風に使うのもこの国のやり方である。地下鉄が人の移動という本来の目的だけでなく、こういうアートを施すことにより芸術的な空間を作り上げ、ホームを慌ただしく行きかう人々に潤いを与え、ひいてはストックホルム市のバリューを加えることになる。上手いやり方だと思う。