年老いた友人ジェイが高齢者施設に入居するまでの経緯(7)

ジェイが夜、我が家に出没してからちょうど1週間後の日曜日の昼、ヘルパーから電話がかかってきた。ジェイが腕をナイフで傷つけて自殺未遂を図ったという。聞いた途端、体が震えた。幸いにも命に別状はないとのことである。 先週、ジェイ宅でヘルパーと会った際に我々の電話番号を教えてあったので、それでまず我々に連絡をよこしてきたという。なんということだろう。ジェイはそこまで思い詰めていたのか、本当に死にたいと思ったのか? その日は日曜日だし、しばらく安静にしておいてあげたほうがいいというので、その日病院へ行くことは控えた。

ジェイはいったいどこに?

それでもとりあえず、病院へ連絡し様子だけでも聞いてみようと、教えてもらった病院へ電話をしたのだが、これが信じられないほど厄介なことだった。 ジェイが収容された病院は年間24万人の通院患者を抱えるストックホルム市の大きな総合病院である。電話受付にジェイの名前とパーソナルナンバーを言っても、登録されていないという。大抵の場合、名前がなくてもパーソナルナンバーさえあればデータベースからすぐに検索してもらえるのに、その日は日曜日で救急で運ばれたからか、まったく記載されていないのである。救急患者が年間10万人いる病院である。

翌月曜日、ヘルパーに電話でジェイの居場所を尋ねたら「別の病院へ移されたようだ」ということである。その移されたという病院(ここも市の総合大病院)へ電話をしたのだが、これも前日同様、まったく記録に残っていないのだ。情報が何人もの人を介して伝わるので、あいまいで仕方がない。 そして運ばれてから3日目の火曜日、やっと居場所がわかった。救急で運ばれた最初の病院の精神科へ落ち着いたようである。我々が面会に行くと、検査や腕の傷治療のため転々と移動させられ、さすがにジェイは疲れている様子だったが、精神面では落ち着いており、むしろ新しい環境に喜んでいる様子であった。すでに他の友人も訪ねてきてくれているという。ジェイの好物であるデーニッシュを一緒に食べながら傷の具合を尋ねると彼は包帯を巻いた腕を見せ、「まだ少し痛むが実のところ何がなんだかよく覚えていない、とにかく自分でも驚いている。」と言う。

ジェイがしばらく落ち着くことになった科の患者は20歳代から90歳は過ぎているだろうと思われる面々で、年齢の幅があった。ハタから見れば見舞い客と普通に話している入院患者である。だが、我々見舞客がそのセクションへ立ち入ろうとするとルールを言い渡された。まず手荷物、ジャケットなどはロッカーへ入れること。患者への食べ物を持ってきた場合は看護婦に見せ、もしそれがビニールに入っていればそのビニールは捨てて皿に移し替えること。それを聞いて、このセクションは自殺を図った(あるいは図ろうとする)危険性を持った人たちがいる場所なのだと理解した。

この病棟は個室が廊下をはさんで20部屋くらいあっただろうか、そしてその廊下の先には共通のダイニングルーム、テレビ室、ソファーが置かれた居間、そしてトレーニングマシンが置いてある部屋があり、館内は明るくて清潔感があふれている。ダイニングには大きな水槽が飾られ、色とりどりの小さな魚が泳いでいる。看護師は気のせいかガッチリ型の男性の方が多いように見えた。食事の時間になると個室にわざわざ言いに来てくれ、患者達はダイニングルームで彼らが配膳してくれるものを一緒に食べるのである。 ジェイは「もう自分のアパートには戻りたくない。高齢者用の施設に移りたい。」と見舞いに行った夫に希望を打ち明けた。我々も以前からそのほうがジェイのためには良いのではないかと考えていたし、本人がその気になったのであれば一日も早く手配をしたほうがよいということでジェイ自身がサインをした書類を自治体に提出した。ジェイ本人もドクターにその希望を出してあるという。

ジェイはこの後さらなる検査のために別の病院へ送られるということのみ教えられ、それがいつどこの病院になるのか、スタッフに聞いても次の病院に空きが出来たらというだけでわからなかった。結局計8日間この病院に入院することになる。 入院しているといっても、とりたてて体が悪いわけでもないので、私の義母や他の友人もジェイを見舞うたびにスタッフの許可を得て病院の周辺を散歩に連れ出し気分転換をさせた。救急で運ばれたときは着の身着のままだったので、冬用の衣類を友人たちが持ち込んでくれていた。

 

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